職員室

リレートーク

にちがくの教職員によるリレートーク
~学校生活、そして日常を語り繋ぎます~

2017-06-28

「杉浦重剛先生関連の調べもの」坂口先生(図書室)

図書室に続く廊下に、日本学園の歴史をまとめたボードが並んで掲げられています。ボードには校祖・杉浦重剛先生についての記述も載っているのですが、先日ふと疑問がわきました。
「杉浦先生を東宮御学問所御用掛に推薦したのは誰?」
倫理を担当したことはいろいろな資料に書いてあったのですが、適任者として杉浦先生を推したのは誰か分からなかったので司書らしく調べてみました。

まず、最近発行された『昭和天皇実録 第二(東京書籍)』を読むと、大正3年5月4日に「(引用開始)本月二十三日には日本中学校校長杉浦重剛が倫理担当として東宮御学問所御用掛に任じられ(引用終了)」という記述で初めて名前が登場します。倫理と外国語以外の御用掛の名前は4月に登場しているので、決まるまで時間がかかったようです。

一方『杉浦重剛全集 第六巻(杉浦重剛全集刊行会)』の「致誠日誌」から杉浦先生の日記をみると、5月15日に御用掛任命の話を浜尾男爵に言われて「(引用開始)一両日返答ノ猶予ヲ請ヒ(引用終了)」としているので、とても急な話だったことがうかがえます。
よって杉浦先生を御用掛に決めた東宮御学問所の中心人物が記録を残していれば何か分かるかもしれないと思いネットで検索してみたところ、それらしき本を見つけました。

それは昭和10年に発行された『花ふゞき(三幸堂書店)』という本で、著者の小笠原長生は東宮御学問所の幹事です。さらに東宮御学問所総裁東郷平八郎の部下でもあります。つまり探していた当事者が書いた本です。タイトルからして回想録の匂いがぷんぷんします。

本の内容は、国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができました。この本の「御進講当時の杉浦重剛先生」という章に、「杉浦先生抜擢の経緯」という節がありました。

著者は文部省の教科書委員をしていたときに、同委員の山川健次郎博士に「(引用開始)此の会に杉浦を入れないといふ事は甚だ間違ってゐる。どうしても杉浦は缺くべからざる人である。(引用終了)」と言われたのがきっかけで杉浦先生のことを覚えていたようです。

山川健次郎は著者と同じく東宮学問所の評議員となり御用掛を決める側になりましたが、これだけでは山川が御用掛に杉浦先生を推薦したという証拠にはなりません。

ほかに記述がないか目次を見ると、「フロツクコートを着た乃木将軍 山川男」という章があり、山川健次郎のことかと思って読んでみると、「東宮御学問所評議員としての山川男」という節に「(引用開始)倫理の御進講は杉浦重剛氏が任命せられたが、之を第一に推挙したのは山川男であった。(引用終了)」とありました。よって倫理の御用掛に杉浦先生を推薦したのは山川健次郎で確定しました。

ちなみに山川は会津藩の白虎隊の生き残りで、理学博士となり東京帝国大学の総長をつとめた人でもあります。杉浦先生と年齢も職場も近かったようですが、以前から交流があったかは調べきれませんでした。

おまけで杉浦先生は山川健次郎が自分を推薦したことを知っていたのか?を調べてみました。任命された大正3年5月の記録をさがすと、『杉浦重剛全集 第五巻』の「天台道士語録【前編】」に、「(引用開始)伊東知也が来て、『此度先生を推挙したのは大隈でせうか。若し其れならば、国民党を脱して、大隈を助けたいとも思ひますが、真実の消息は如何なものでせうか』と云ふから、予は答へて、任命のあった日に、大隈さんへも挨拶に行くべきものかと浜尾君に聞いたところが、浜尾君は『此の事は少しも大隈に関係の無いことだから其れには及びますまい』、といふ事であつたと話してやつたよ。(引用終了)」と杉浦先生本人が話したという記述がありました。大隈というのは大隈重信のことで、第二次大隈内閣が4月から始まっていることから、推薦に関わったのでは?と思ったようです。よって、杉浦先生は少なくとも任命されたときは誰が推薦したかは教えられなかったと推測できます。

ちなみに『花ふゞき』の「御進講当事の杉浦重剛先生」では、エピソードがいくつか載っていました。個人的には沼津の松原で東郷元帥と杉浦先生が密談をしていて、著者の小笠原長生が二人は国の重大なことについて話していると思っていたら、実際は東郷元帥が(お菓子の)パイを褒め、杉浦先生が羊羹の方がいいと答えるなどの食べ物の話ばかりしていた…という話が面白かったです。

国立国会図書館デジタルコレクションでは、インターネットができる環境であれば以下のアドレスから「御進講当事〜」などを読むことができます。ぜひ読んでみてください。
御進講当事の杉浦重剛先生
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1225608/136

東宮御学問所評議員としての山川男
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1225608/135

参考・引用文献
明治教育史研究会編『杉浦重剛全集 第5巻』杉浦重剛全集刊行会,1982年
明治教育史研究会編『杉浦重剛全集 第6巻』杉浦重剛全集刊行会,1983年
宮内庁『昭和天皇実録 第二』東京書籍,2015年
小笠原長生『花ふゞき』三幸堂書店,1935年
新潮社辞典編集部編『新潮日本人名辞典』新潮社,1991年