職員室

リレートーク

にちがくの教職員によるリレートーク
~学校生活、そして日常を語り繋ぎます~

2017-07-26

「高校2年生、『桐島、部活やめるってよ』を読む」伊藤先生(高2学年主任・国語科)

日本学園高校では、学期ごとに学年全員が同じ課題図書を読み、学期末に各自の読書の深まりについてチェックする「読書テスト」を実施しています。昨年度からの取り組みですが、高校2年生は今までに、ルイス・サッカー『穴―HOLES』、ドリアン助川『あん』、『16歳の教科書』、長谷部誠『心を整える』を読んできました。

高校2年の1学期に選んだ本は、朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』です。内容ですが、バレー部のキャプテンであった「桐島」が突然部活を辞めたことにより、5人の生徒たちの学校生活に影響を与えていく、その5人の姿を描いた「群像小説」です。面白いことに、タイトルに登場する「桐島」は、小説には登場しません。現代の高校生の姿がリアルに描かれており、我らが高校2年生たちがどんな感想を持つか大きな興味を覚え、この本を選びました。

さらに、希望する生徒たちを集め、放課後に「読書会」も開きました。20名ほどが集まり、感想を述べあい、また私の方で、この小説のテーマや仕組みについて解説を行いました。参加した生徒はみな「面白かった」と述べていました。
さらにさらに、保護者の方にも『桐島、部活やめるってよ』の読書会を企画し、実施しました。参加いただいた方は2名と少なくはありましたが、保護者の方の感想や、現代の若者をめぐるお話が聞けて、私自身大変有意義な時間を過ごすことができました。

作中の高校生たちは、学校の中で、「イケているか、イケていないか」「ダサいか、ダサくないか」などの判断の下に、自分がどの位置にいるかを非常に気にします。「スクール・カースト」と呼ばれるものです。この「スクール・カースト」が彼らの言動を不自由なものにさせています。自らを「下」に所属すると考えている映画部の前田涼也は運動が不得意で、体育の授業でみんなに迷惑をかけると「世界で一番悪いことをした」ように感じています。反対に、野球部の「ユーレイ」部員である菊池宏樹は、イケメンで勉強もでき、制服の着こなしもきまっていて、スポーツ万能、さらにかわいい彼女もいます。まさにイケてる高校生で「上位カースト」に位置しています。
しかし、この小説の面白いのは、このカーストが固定されたままではないという点です。映画部の前田は製作した映画によって、「映画甲子園」に出場します。上位カーストにいる菊池宏樹が決して出場することのできない「甲子園」という舞台に立つのです。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、興味を持った方はぜひ読んでみてほしいと思います。
生徒が書いた感想をいくつか紹介したいと思います。


宏樹は野球のユーレイ部員で部活をサボっては竜汰たちとカラオケにいったりしていたが、涼也の部活に対しての思いを見て、何かに夢中になれるということは大切だと思う。自分もとりあえずの学校生活をおくるのではなく、何かに夢中になれるものを見つけようと思った。桐島が部活を辞めて、周りに起きた変化をその人の視点で読むこの本はとても面白かった。スクールカーストや実果の家族などの話を読んで心を揺さぶられた。僕はこの本を読んで一人一人にストーリーがしっかりとあるのだなと思った。桐島が部活を辞めた理由も自分なりに考えてみようと思った。(D組S君)

菊池宏樹の物語で男子と女子の違いや「上」と「下」の違いを客観的に見ているように感じた。そして、前田に話しかける時には、人間は階層で分けられるものでもないと考えさせられた。
自分は中・高、男子校なので、すごく新鮮で衝撃的だった。高校という半分子ども、半分大人みたいな場所は、生徒の関係が複雑に関わっている小さな社会のようにもこの物語から感じられた。共学に憧れつつも男子校で良かったと素直に思える作品だった。(B組H君)

僕は小泉風助の話がとても印象に残っていて、個人的に五つの物語の中で一番良い話だと思います。桐島がバレー部を今まで引っぱってきたのに突然消えてしまって、風助がその時から自分の価値や自分がどういう存在だったのかを気づく描写がとても心にひびいて、もし自分が風助と同じ立場だったらどう考えるだろうなど、たくさん考える事ができたのがとても印象に残りました。
そして、この本全体を読んで、桐島という登場人物全員が印象に残っている一人が突然部活を辞めたことによって、それまであった全員にとっていつもの景色が無くなることによって自分を見つめ直すという感じがして、繰り返し読んでいくたびにとても面白く感じました。(C組O君)


S君の感想にあるように、「全員、一人一人にストーリーがある」という気づきは素晴らしいと思います。そして、そのストーリーは少なからず関わり合っている。「群像劇」であるこの小説が言わんとしていることはまさにその通りなのだと思います。
またH君は、「男子校で良かった」と書いています。男子よりもより強く「カースト」にしばられている女子生徒たちの言動に驚いたのでしょう。H君は中学から日本学園ですから、女子生徒の姿に免疫があまりありません。面白いことに、「男子校で良かった」という感想は多くの生徒が書いていました。日本学園にもおそらく「スクール・カースト」はあるでしょう。しかし、男子校で女子の目を気にしないでいられる部分、そのカーストにしばられている感じはほとんどありません。みんな思い思いに、自分の好きな道に、誰からも干渉されることなく、イケてるとかイケてないなどという他者の目など気にせずに打ち込んでいます。教室では自分の趣味について語っています。本校の学園祭はここ数年、開会式では有志の生徒たちが全力で「ヲタ芸ダンス」をしています。満場の拍手が起こります。ダサいとかダサくないか、なんてことを考えず、自分がやりたいということには思い切ってその情熱を傾ける。そういう姿を見ると私はとてもうれしくなります。
そして、O君の感想、「桐島の不在」によって自分を見つめなおすという指摘にはまさにその通りだと思いました。このO君はこの小説がとても気に入ったらしく、何度も読み直したそうです。読む度に新しい発見をしたそうです。「桐島」という、いつも見慣れた景色を失ったとき、むしろ自分の存在について考え始める。哲学でいう「実存」というやつです。そして恐らく、O君はこの小説を読むという行為の中に、新たな自分をも発見して行ったのではないかと思います。


読書という体験は、それを読むことによって、今まで自分が見ていた世界を新たな世界として見えさせるものだと思います。『桐島、部活やめるってよ』の中には実は「光り」の描写が上手く用いられています。読書こそが生徒の人生を照らす光りに、我々国語教員はそう願ってやみません。


追記
昨日7/25に行われた夏の甲子園予選準々決勝、早稲田実業戦において、2番手投手として登板した2年生のN君は、1年の2学期に読んだドリアン助川の小説『あん』の感想の中で、自分が小学生の頃によくハンセン病の施設全生園の敷地の中で野球をやっていて、その時のことや、ハンセン病の回復者との交流について書いていました。
読書が自分の記憶にもつながり、自分の体験をさらに強いものにするということもあるのだと感じました。昨日の野球部の健闘を称えるとともに、ここに追記させていただきます。