職員室

リレートーク

にちがくの教職員によるリレートーク
~学校生活、そして日常を語り繋ぎます~

2017-09-15

『地獄の黙示録』を解く 田中先生(高3副担任・社会・フットサル)

April is the cruellest month、などと言いますが、先月八月は、私にとっては「八月は最も忙しい月」というべきものでした。講習から授業準備、学校内外の様々なイベントに部活動……挙げればきりがないですが、その仕事の中で様々なことを学ぶことができたな、と、今にして思えばよき月であった、といえるともいます。

さて冒頭の一文をみて「何で急にT.S.Eliot?」などと思われたかもしれません。忙しい中でも私にも幾日かの休みがあり、そこで私は頭と体をリフレッシュするわけなんですが、今年の休みは延々と「地獄の黙示録」を見続けていました(たぶんその休みの期間だけで10回は見たのではないかと思います)。「何でまたそんなことを……」と疑問に思われた方もいらっしゃるかと思いますが、それもまあ、当然といえます。なぜかといえば、立花隆氏の名著『解読「地獄の黙示録」』を手に入れたから、というのがその理由です。

私がかの名画に出会ったのは、それこそもう20年以上のお話。最初に見たときは、なんだか陰鬱で退屈な、しかしその薄暗い中に浮かび上がるラストシーンだけが妙に心に残る、よく分からないけれど、言葉にできない何かが心全体を揺さぶるような、そんな映画だったように思います。

そして現在の自分ですが、なぜか急に『地獄の黙示録』を読み解いてみたい、そんな衝動にかられて、これまた衝動的に通信販売で購入しました。詳しい内容をここに記述したいところですが、はっきり言ってそんなことは不可能ですので差し控えさせていただきます。が、なぜこれほどまでにこの名画に心惹かれたのか、それが解析できたように思います。

この映画は、コンラッドの『闇の奥』を題材に取りながら、過去ではありつつもベトナム戦争というアクチュアルな内容を取り扱った作品ですが、これは「現代の神話」なのです。ここで言う神話とは、レヴィ=ストロースの言うところの「構造としての神話」という意味です。これまたその内容をここで詳しく解説するわけにはいきませんが、監督のフランシス・コッポラはこの作品の中に、様々な文学作品のエッセンスをちりばめていました。その一つが、フレイザーの『金枝篇』やアーサー王物語の中のパルジヴァル(聖杯伝説)、オイディプス神話、そして上記した『荒野』を初めとする、T.S.Eliotの詩だったといいます。立花隆曰く、我々日本人にとってこの映画が難解に映るのは、およそ西洋の人たちが共通に持つこれらの古典に対する知識が存在しないからであり、それであるがゆえに日本人の『地獄の黙示録』評はどこかナンセンスなものにしかならない、とのことです。

そこで思い出したのが、これまた最近読んだ本ですが、森有正氏の『バビロンの流れのほとりにて』です。森氏は感動するほどに美しく私的な文章を残しておられますが、森氏は、フランス語や西洋文明には、ギリシア・ローマを初めとする諸文明が現在にいたるまで通底している、と考えられておられます。また森氏はフランス語の持つ論理性に対する日本語の持つ非論理性を挙げてもおられます。おそらくそれは『地獄の黙示録』に対する日本人の見方の一面的に過ぎる理由にも言えるのではないかと私には思えます。我々日本人には、西洋人が普通に持っている様々な教養としての部分が、当たり前といえば当たり前ですが欠落しているのです。

劇中流れるDoorsの『TheEnd』ですら、我々日本人はそこに流れる西洋人の持つ強い意識、それを感じ取ることはできないのです。先にあげたレヴィ=ストロースは「文化に優劣は存在しない」といいつつ一番好きな文化は「フランス文化」だといっていたようですが、そこにはやはり西洋を代表する優れた知性のプライドすら感じ取ることができます。

文明に優劣は存在しない、それは確かにそのとおりです。しかし、彼らの文明の水を集めた教養を共有できない、その一点において、我々は確かに「野蛮」だといってもいいのかもしれません。そんなことを考えていると私はついにやたらにはっきりと響く母音やつぎはぎのような膠着を持つ日本語を、読むのすら何だか重苦しく感じられるようになってしまいました(あくまでも一時的なものでしたが)。

上記のような話を、英語科の鈴木匠先生に話したことがありますが、「森有正はそういうことを言う人だよ」とあっさりとおっしゃっておられました。また「今は文化自体が軽薄な方向に進んでいるわけだから、もっと柔軟に物事を考えたほうがいいよ」と諭されました。うーん、さすがは高三学年主任。私もあまり物事を面倒に捉えることなく、シンプルに考えなければ。常々言われていることを再認識した想いがいたしました。

そんなエスプリかおる本校の教員が主催するオープンキャンパス、英語科も授業を行いますので、奮ってご参加ください。